宮崎地方裁判所 昭和59年(ワ)869号 判決 1995年3月31日
原告
永井昭一郎
右訴訟代理人弁護士
鍬田萬喜雄
同
後藤好成
被告
内海漁業協同組合
右代表者理事
長友房己
右訴訟代理人弁護士
殿所哲
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 昭和五七年(ワ)第一一五五号事件
被告は、原告に対し、金一八九五万八九五〇円及びこれに対する昭和五八年一月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
二 昭和五九年(ワ)第八六九号事件
被告は、原告に対し、金五四六六万九三三九円及びこれに対する昭和五七年一月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、国の宮崎空港拡張計画(昭和五七年(ワ)第一一五五号事件)及び国の宮崎新港建設計画(昭和五九年(ワ)第八六九号事件)に伴う埋立工事により生じた操業禁止区域に対する補償(以下「本件補償」ともいう。)に関し、被告が、漁業被害を受ける原告らのために宮崎県と交渉し、補償金(以下「本件補償金」という。)を受領したが、許可漁業者である原告は、被告に対し、宮崎県と交渉し本件補償金を受領して、「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(昭和三八年運輸省訓令第二七号、以下「損失補償基準」という。)及び同基準細則(以下「細則」という。)に則り、原告ら許可漁業者らの損失に応じて配分することを委任していたのに、被告は、右委任の趣旨に反して、本件補償金を自由漁業者にも配分し、原告に、本来受け取れる額と現実に配分を受けた額との差額の損害を与えたと原告が主張して、右損害の賠償を債務不履行又は不法行為に基づき求めた事案である。
一 争いがない事実
1(一)(1) 被告は、昭和二四年九月一五日、水産業協同組合法に基づき設立され、昭和五七年三月三一日現在の組合員数は一五三名、そのうち許可漁業の漁業体は六六体、自由漁業の漁業体は一二四体であり、青島漁業協同組合とともに青島・内海沖の第一三号(昭和五八年八月までは第一四号と称していた。)共同漁業権を有している。被告の目的は、組合員が協同して経済活動を行い、漁業の生産能率をあげ、組合員の経済的社会的地位を高めることであり、この目的のため、組合員への資金の貸付、組合員からの貯金等の受け入れ、組合員への物資の供給、組合員の共同利用のための施設の設置、組合員による漁獲物等の販売、その他の事業を行っている。
(2) 被告の組合員には、許可漁業者と自由漁業者があり、また、正組合員と準組合員がある。許可漁業は、宮崎県知事あてに新規許可又は許可の更新を申請し、宮崎県知事が許可又は許可の更新を認めることにより、営める漁業である。許可を受けた組合員である許可漁業者は、許可区域の範囲内で一定の漁法で許可条件に従った漁業を営むことになる。このような許可がない自由漁業者は、許可漁業に該当する漁法で漁業を営むことはできないが、それ以外の漁法であれば、いつでも、どこでも、自由に漁業を営むことができる。
(二) 原告は、被告の組合員であり、宮崎市沿岸付近の海域(以下「本件操業区域」という。)において、昭和三〇年五月ころから、宮崎県知事の許可を受けて小型底曳網漁に従事してきた許可漁業者である。
2(一) 国と宮崎県は、昭和四五年九月ころから、宮崎港整備事業を実施することを計画し、右整備事業のうちの宮崎新港建設計画に伴い宮崎港付近(大淀川河口北側付近)の一部が、昭和六〇年ころまでに埋め立てられることとなった。
(二) また、国と宮崎県は、昭和四六年一二月ころから、宮崎空港整備事業を実施することを計画し、右整備事業のうちの国の宮崎空港拡張計画(滑走路一九〇〇メートル延長及び滑走路二五〇〇メートル延長)に伴い宮崎空港付近の沿岸の一部が、昭和六〇年ころまでに埋め立てられることとなった。
(三) (一)の埋立により、大淀川河口から北側の宮崎港にかけての操業禁止区域が、(二)の埋立のうち滑走路二五〇〇メートル延長に伴うものにより、大淀川河口から南側の宮崎空港滑走路沖にかけての操業禁止区域(以下、この両者の操業禁止区域をあわせて「本件操業禁止区域」という。)がそれぞれ出現し、本件操業区域の海流、プランクトンの成育状態、魚群の動向に大幅な変動をきたし、宮崎市沿岸における漁業の漁獲高が大きく減少することがほぼ確実となった。
3 宮崎県は、2(一)及び(二)の各埋立により、漁業者に生ずる損失について、国に代わって立て替えるかたちで先行補償することとなり、右補償額を基本的に損失補償基準二〇条及び細則第七第二項に基づき算定した。
4(一) 被告は、昭和五三年一月三一日の通常総会において、2(一)の宮崎港整備事業に伴う損失の補償について、宮崎県との交渉は被告の対策委員会に一任する旨決議されたことに基づき、対策委員会を設置して宮崎県と補償額等について交渉した。
(二) 宮崎県は、被告に対し、同年三月ころ、右工事に伴う損失については損失補償基準に基づき補償する旨説明した。
(三) 被告と宮崎県は、昭和五四年一一月二八日、宮崎県と被告は誠意をもって右工事に伴う損失補償について協議する旨の了解事項の確認書を取り交わし、さらに、昭和五五年一〇月八日、宮崎県が右損失の補償として総額三億五五〇〇万円(以下「本件新港補償金」という。)を支払うことなどで合意に達し、同年一二月八日、本件新港補償金の支払等に関する補償契約を締結した。そして、宮崎県は、被告に対し、昭和五六年三月二〇日、本件新港補償金を支払った。
(四) 被告は、原告ら許可漁業者に限らず、自由漁業者に対しても、昭和五六年一二月二一日及び二二日に、本件新港補償金を配分した。
5(一) また、被告は、昭和五六年一一月三〇日の臨時総会において、2(二)の宮崎空港整備事業にかかる損失の補償について、交渉委員(七名)を選任し、交渉委員が宮崎県と補償額等についての交渉にあたることを決議した。
(二) 被告と宮崎県は、昭和五七年三月一三日、宮崎県が右損失の補償として総額一億二五〇〇万円(以下「本件空港補償金」という。)を支払うことなどを内容とする補償契約を締結した。そして、宮崎県は、被告に対し、同年六月三〇日、本件空港補償金を支払った。
(三) 被告は、原告ら許可漁業者に限らず、自由漁業者に対しても、同年一二月二九日に、本件空港補償金を配分した。
二 当事者の主張及び争点
1 原告の主張
(一) (原告と被告の委任契約)
(1) 原告は、被告に対し、本件補償について宮崎県と交渉して、本件補償金を受領し、宮崎港整備事業及び宮崎空港整備事業により損失を受ける原告ら許可漁業者に、その被る損失に応じて損失補償基準に基づく金額を算定した上、配分することを委任した。
(2) 被告は、本件補償について前記のとおり宮崎県と交渉し、補償に関する契約を締結し、本件補償金を受領したが、それらは、いずれも原告を含む許可漁業者の代理人として行ったものである。
(二) (違法行為)
(1)ア 本件補償は、公共の工事のために本件操業禁止区域での漁業の操業が将来にわたって禁止されることとなったことに伴い、過去本件操業禁止区域で操業し、漁業収益をあげていた漁業者が将来喪失することとなる操業利益に対する補償であり、本件補償金の補償額の算定は、損失補償基準二〇条及び細則第七第二項に基づきなされたものであるところ、補償の対象となる者は従来本件操業禁止区域で、一定の権利と認められる程度に、漁業操業に携わってきた者でなければならず、このような者は、本件操業禁止区域で操業を行って来た原告ら権利性のある許可漁業に従事しているものに限られる。また、宮崎県も、本件補償の対象者としては、許可漁業者に限っており、補償の算定も本件操業区域内での年間水揚高とこれに対する許可漁業者の依存度を基準として行った。
イ 被告が、本件補償の配分にあたって行使できる裁量の範囲は、原告らの委任の趣旨にかなう損失補償基準等に従わなければならないという制約がある。
(2)ア ところが、被告は、前記事実からすれば原告ら許可漁業者のみに本件補償金をその受ける損失に応じて配分する義務を負っていることを知りながら、故意に裁量の範囲を逸脱し、補償の対象水域外で操業している他の一般の組合員に対しても昭和五六年一二月二一日及び二二日に本件新港補償金を、さらに昭和五七年一二月二九日に本件空港補償金をそれぞれ分配した。右配分は、委任の趣旨を超え、かつ合理性を欠くものである。
イ 仮に、本件補償の対象となる者に原告ら許可漁業者以外の者が含まれていたとしても、その対象者は、本件操業禁止区域の出現によって直接影響を受ける者に限られるべきであるところ、被告は、全く影響を受けないマグロ漁、カツオ漁、深海エビ漁、定置網漁(本件操業区域とは別の海域の固定した場所での漁業)等の漁業種を営む者に対しても本件補償金の配分をした。
(三) (損害)
(1)ア 原告が、本来受け取れた本件新港補償金は以下のとおりである。
ⅰ 被告所属の許可漁業者で、本件補償の対象となった者の本件操業区域における昭和四八年から昭和五二年までの年間平均総水揚高(以下「本件新港総水揚高」という。)は二六一六万八〇〇〇円であり、原告の本件海域における同期間の年平均水揚高(以下「本件新港個人水揚高」という。)は四八七万一二八五円である。
ⅱ 原告の本件操業区域に対する依存度は一〇〇パーセントであった。
ⅲ 本件新港補償金は、一4(三)のとおり、三億五五〇〇万円であるところ、本件新港総水揚高一万円当たりの本件新港補償金は一三万五六六一円となる(本件新港補償金三億五五〇〇万円を本件新港総水揚高二六一六万八〇〇〇で割って、これに一万をかけた金額)。
ⅳ 原告の本件新港個人水揚高四八七万一二八五円及びⅲの一三万五六六一円をもとに、原告が本来受け取れた本件新港補償金を計算すると、六六〇八万四三三九円となる(本件新港個人水揚高四八七万一二八五円にⅲの一三万五六六一円をかけて、これを一万で割った金額)。
イ ところが、原告が、被告から配分を受けた本件新港補償金は、一一四一万五〇〇〇円であった。
ウ 原告は、被告の前記(二)の違法な配分により、本件新港補償金につきアとイの差額である五四六六万九三三九円の損害を受けた(昭和五九年(ワ)第八六九号事件)。
(2)ア また、原告が本来受け取れた本件空港補償金は以下のとおりである。
ⅰ 被告所属の許可漁業者で、本件補償の対象となった者の本件操業区域における昭和五〇年から昭和五四年までの年間平均総水揚高(以下「本件空港総水揚高」という。)は二八三八万六六〇〇円であり、原告の本件海域における同期間の年平均水揚高(以下「本件空港個人水揚高」という。)は五二三万四〇〇〇円である。
ⅱ 原告の本件操業区域に対する依存度は一〇〇パーセントであった。
ⅲ 本件空港補償金は、一5(二)のとおり、一億二五〇〇万円であるところ、本件空港総水揚高一万円当たりの本件空港補償金は四万四〇〇〇円となる(本件空港補償金一億二五〇〇万円を本件空港総水揚高二八三八万六六〇〇円で割って、これに一万をかけた金額。正確には四万四〇三四円であるが、原告の主張の概数額をそのまま記載する。以下の計算においても同じ。)。
ⅳ 本件空港個人水揚高五二三万四〇〇〇円及びⅲの四万四〇〇〇円をもとに、原告が本来受け取れた本件空港補償金を計算すると、二三〇四万円となる(本件空港個人水揚高五二三万四〇〇〇円にⅲの四万四〇〇〇円をかけて、これを一万で割った金額。)。
イ ところが、原告が、被告から配分を受けた本件空港補償金は、四〇八万一〇五〇円であった。
ウ 原告は、被告の前記(二)の違法な配分により、本件空港補償金につきアとイの差額である一八九五万八九五〇円の損害を受けた(昭和五七年(ワ)第一一五五事件)。
2 原告の主張に対する認否
(一)(1) 原告の主張(一)(1)の事実は否認する。
(2) 原告の主張(一)(2)の事実のうち、前記一のとおり、被告が、本件補償について宮崎県と交渉し、補償に関する契約を締結し、本件補償金を受領したことは認め、その余は否認する。
(二)(1)ア 原告の主張(二)(1)アの事実のうち、本件補償金の補償額の算定が、損失補償基準二〇条及び細則第七第二項に基本的に基づきなされたことは認め、その余は否認ないし争う。
イ 原告の主張(二)(1)イは争う。
(2)ア 原告の主張(二)(2)アの事実のうち、前記一のとおり、被告が、補償の対象水域外で操業している他の一般の組合員に対しても昭和五六年一二月二一日及び二二日に本件新港補償金を、昭和五七年一二月二九日に本件空港補償金をそれぞれ分配したことは認め、その余は否認ないし争う。
イ 原告の主張(二)(2)イは争う。
(三)(1) 原告の主張(三)(1)の事実のうち、前記一のとおり、本件新港補償金が三億五五〇〇万円であることは認め、その余は否認ないし争う。原告が配分を受けた本件新港補償金は一二六八万三〇〇〇円であった。
(2) 原告の主張(三)(2)の事実のうち、前記一のとおり、本件空港補償金が一億二五〇〇万円であることは認め、その余は否認ないし争う。原告が配分を受けた本件空港補償金は四五三万四五〇〇円であった。
3 被告の反論
(一) (被告の地位)
被告は、漁民の協同組織体で、その主要目的は漁民の経済的社会的地位の向上を図ることであり、右目的達成に必要な広範な事業を行うことが認められ(水産業協同組合法一一条一項一号ないし一二号)、その一環として、組合員の経済的地位の改善のために、漁業協同組合である被告が当事者となって、組合員の取引相手方との間で、その取引条件など組合員個人に帰属すべき利益に関し、団体協約を締結する権限を与えられている(同法一一条一項一一号)。被告がこのような権限を有する趣旨から、本件補償についても、被告は、独自の団体協約を締結する権限に基づき被告自身が当事者となって、組合員の経済的利益のために、宮崎県と交渉し、契約を締結し、本件補償金を受領する権限を有していた。被告は、右権限に基づき宮崎県と交渉し、補償に関する契約を締結したのであり、被告に属する組合員の代理人としてこれらの行為をしたのではない。
(二) (被告の受けた委任の趣旨)
仮に、被告が、原告ら許可漁業者から本件補償につき宮崎県と交渉し、補償金を受領した上でこれを配分することを委任されていたとしても、被告は、被告の組合員のうち、原告ら許可漁業者に限らず、補償の対象となる者すべてから、同様な趣旨の委任を受け、しかも、右委任の趣旨の具体的な内容は、組合員個人の補償額を具体的に確定した契約を締結し、右補償額を請求し受領することではなく、補償総額について宮崎県と交渉し、補償契約を締結し、補償総額を請求して受領した上、これを配分するというものであった。そして、本件補償金の配分は、右委任者の委任の趣旨に基づき実施されたものである。
(三) (被告の本件配分につき有する裁量の範囲及び本件配分の合理性)
(1) 自由漁業者は、損失補償基準及び細則によっても、本件補償の対象者になっている。すなわち、許可漁業と自由漁業の区別は漁法、区域、時期の違いのみであり、自由漁業者も本件操業区域で操業していたのであって、許可漁業者は本件補償にあたり行政庁の許可があったからといって当然に権利性を有するのではなく、当該漁業の利益が社会通念上権利と認められる程度にまで成熟していると認められる場合にのみ権利性を付与され補償の対象となるのであるから、自由漁業者と別異に取り扱われる根拠はなかった。それに、原告の主張の根拠である細則第七第二項は、漁業権、入漁権、その他漁業に関する権利を定義した規定に過ぎず、補償の対象者を定めた規定は、細則第七第三項であり、同項によれば、免許・許可以外の漁業においては、都道府県知事又は漁業調整委員会が認める者が補償の対象となっており、宮崎県知事は、被告所属の自由漁業者も補償の対象と認めて被告に対し本件補償金を支払った。
また、被告は、宮崎県との補償契約書及びその了解事項などによって、本件補償金を一定の裁量範囲において独自の算定基準により全組合員に適宜配分する権限を持つものであり、その裁量範囲は、必ずしも損失補償基準に厳格に拘束されない。
(2) 自由漁業者を含めてした本件補償金の配分は、以下の事実からすれば、被告の裁量の範囲内であり、かつ合理性がある。
ア 自由漁業者も本件操業禁止区域で操業していたものであり、宮崎県は、補償額の算定にあたっては、自由漁業者も本件補償の対象となっていることを前提に、損失を各漁業又は各漁民ごとに区分し特定して算出することなく、国の水産統計に基づき全漁獲量(自由漁業及び許可漁業の全漁獲量)を基礎に、後記ウのとおり被告が宮崎県との交渉において、組合員の受ける一切の漁業利益(損失補償基準上の権利性のないものをも含む。)を含む全面補償でなければ補償交渉には応じない旨の強い態度であったことによる政策的配慮も加味して、総額を算定した。
イ 許可漁業者に限らず被告の組合員全体が、本件操業禁止区域の出現により水揚高が減少し、そのため、被告から受け取る配当が減少するという経済的な不利益を受けることとなった。
ウ 被告は宮崎県と交渉するにあたり、許可漁業者及び自由漁業者の漁業利益の放棄に対する補償も含めた全面補償でないかぎり、本件補償交渉には応じられない旨強く主張し、許可漁業者も自由漁業者も結束して本件補償の交渉にあたった。その結果、宮崎県は本件補償金を、許可漁業者を対象にするものか自由漁業者を対象にするものかについて特定することなく被告に支払った。また、本件補償の交渉の過程においても本件補償金の配分の過程においても、本件補償金が許可漁業者のみを対象とするもので、自由漁業者は含まれないという議論が出たことはなかった。
エ 許可漁業の許可は、慣例上、宮崎県が被告に一定の人員数の許可枠を与えるものであり、その許可を具体的にだれに与えるかは被告が独自に責任をもって定めるものである。そして、被告の組合員のうち、自由漁業者を含めて特定の漁業について許可を希望する組合員は多数いるが、許可に枠が設けられているため、新規に許可を受けたくても受けられないでやむなく自由漁業に従事している組合員が数多くいる。これに対し、許可漁業者は、許可により、許可がない漁業者が操業できない漁法により、利益を追求することができるが、このことは、他の組合員に許可を得られないという不利益を与えていることとなる。
オ 組合員であれば誰でも、被告を利用して、経済的利益を得ることができるが、被告の活動は、組合員による預金や組合員が漁獲物の販売を委託する際に支払う手数料により支えられている。ところで、被告における、昭和五七年度の自由漁業者の全預金高は五億〇一三五万九八一五円であり、許可漁業者のそれは七六八〇万六八一〇円であった。また、被告が同年度に組合員から受領した販売委託手数料は、自由漁業者については一五八四万八九二九円、許可漁業者については一五〇万四四五八円であった。これらのことからすれば、被告を経済的に支えているのは、原告ら許可漁業者ではなく、自由漁業者である。
カ 被告は、青島・内海沖の第一三号共同漁業権を有しているが、右漁業権の内容は、被告及び青島漁業協同組合の組合員で自由漁業者であれば誰でも右漁業権の範囲内で操業することができるのに対し、許可漁業者は右漁業権の区域内においてはその許可された漁法によって漁をすることができないというものであった。しかし、被告は、許可漁業者に対しても、一定の期間、一定の地域を特定し操業を許可することがある。このように、許可漁業者が漁業権の範囲内で操業した場合は、自由漁業者の水揚高が減少するが、原告ら許可漁業者が、本件操業禁止区域で操業ができなくなった結果、漁業権の範囲内で操業をすることにより、右範囲内における自由漁業者の水揚高の減少をもたらすこととなる。同様に、漁業権が設定されている海域以外でも、許可漁業者が、自由漁業者が従来操業していた区域で操業し、自由漁業者の水揚高が減少するようなことが起こる。
キ 本件新港補償金の配分を担当する配分委員は、昭和五六年一月三一日の被告の通常総会の決議により選任され、同年六月二七日の本件新港補償金の配分委員会において決定された配分案は、被告の同年一一月三〇日の臨時総会で、全会一致で可決されたものである。また、本件空港補償金の配分を担当する配分委員は、同年一一月三〇日の被告の臨時総会の決議により選任され、昭和五七年一二月二四日の本件空港補償金の配分委員会において決定された配分案は、被告の同月二六日の臨時総会で、満場一致で可決されたものである。
4 主要な争点
(一) 被告は、どのような立場で宮崎県との間で補償交渉を行い、本件補償金を受領し、これを被告の組合員らに配分したのか(すなわち被告の地位は、自由漁業者を含む組合員全員の委任に基づくものか、あるいは原告ら許可漁業者のみの委任に基づくものか、それとも被告独自の団体協約締結権に基づくものか。)。
(二) 被告の地位が委任に基づくものであるとした場合、その委任の趣旨は何か。また本件補償金は誰に支払われるべきものか。
(三) (一)及び(二)を前提として、本件補償金の原告に対する配分は、違法ないしは債務不履行となるものか否か。
第三 争点に対する判断
一 争点(一)(本件補償に関する交渉における被告の地位等)について
1 第二の一4(一)のとおり、被告の通常総会において、宮崎港整備事業にかかる損失の補償について、宮崎県との交渉は被告の対策委員会に一任する旨決議され、対策委員会が宮崎県と補償額等について交渉したこと、宮崎県は、同(三)のとおり、被告に対し、本件新港補償金を一括して支払ったこと並びに同5(一)及び(二)のとおり、被告の臨時総会において、宮崎空港整備事業にかかる損失の補償について、交渉委員を選任し、交渉委員が宮崎県と補償額等についての交渉にあたって、本件空港補償金が被告に支払われたことは当事者間に争いがない。
2 甲二ないし五、七、乙一、五、八、一〇、二六、三六、三七、三九、証人森山忠(ただし、以下の認定に反する部分は除く。)、同野崎徹志、同加藤一郎及び同黒木義幸の各証言、原告本人尋問の結果(ただし、以下の認定に反する部分は除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一)(1) 被告は、宮崎県の指示に基づき、本件補償について交渉が開始された後に、全組合員から、①漁業補償金の契約に関する件②漁業補償金の請求並びに受領に関する件③その他漁業補償に関する一切の件に関する権限を被告に委任する旨の委任状を集めた。
(2) 被告は、原告ら小型底曳網漁に従事する者から前記(1)の委任状を集めた際、特に、補償交渉の具体的事項や内容についての委任を受けるようなことはなく、原告にしても、被告が原告ら許可漁業者のためにのみ本件補償に関する交渉を行っているという意識はなかった。また、被告は、原告のような許可漁業者のみのために交渉を行っているということではなく、全組合員である許可漁業者、自由漁業者双方のために補償に関する交渉を行っているということを前提として、本件補償に関する交渉を宮崎県と行った。
(3) そして、被告の各組合員は、本件新港補償金に関する交渉については対策委員会に、本件空港補償金に関する交渉については交渉委員にそれぞれ一任し、いずれの交渉においても組合員が個別に本件補償について、宮崎県と交渉するようなことはなかった。
(二)(1) 宮崎県は、本件補償の対象者を許可漁業者及び自由漁業者で、かつ本件操業禁止区域において操業を営むことにより収入を得ていた者として、前記第二の一3のとおり、基本的に損失補償基準二〇条及び細則第七第二項を補償に際しての内部基準として算定したが、その際、本件新港補償金の算定にあたっては、農林水産統計の昭和四七年ないし五一年の五年間の平均水揚量を、本件空港補償金の算定にあたっては、農林水産統計の昭和五〇年ないし五四年の五年間の平均水揚量をそれぞれ基準とし、許可漁業者だけではなく、自由漁業者を含めた水揚高を計算の基礎とした。
また、宮崎県は、宮崎港整備事業及び宮崎空港整備事業によって生ずる漁業者の被害の度合を示すものとして被害率を出して、各漁業種及び各魚種ごとに本件補償の金額を算定したが、被害率は、各漁業種ごとに一定範囲の操業区域を確定し、その操業区域の面積に対する本件操業禁止区域の面積の割合によって算出した。そして、このように被害率を算出するにあたっては、操業区域内におけるいずれかの範囲で操業していれば、特定の漁業者が操業禁止区域内で現実に操業していたか否かは問われなかった。
さらに、宮崎県は、前記各事業によって影響を受ける被告ら五漁業協同組合が、各事業に反対の立場を当初とっていたこと並びに事業をできるだけ早期に完成させる必要があったことから、損失補償基準等に拘泥することなく政策的な配慮も加味して本件補償の具体的な金額を算定した。
(2) 本件補償は、本件操業禁止区域が設定されたことに伴い、個々の漁民が受ける損害を補償する趣旨のものであるから、本件補償金は、各漁民に支払われるべきものであり、本件補償金の具体的な金額を算定するにあたっては、本来ならば各漁民の受ける損害を個別に算定することが必要であるというのが宮崎県の基本的な立場であった。しかし宮崎県は、本件補償にあたり、補償の対象となる漁業種全体の水揚高を調査することはできたが、その漁業種を営む個々の漁民の操業実態について調査することは、調査範囲が膨大となり、不可能であったので、本件操業禁止区域において、被告の組合員の誰がどの程度の水揚を得ていたかなどの点については具体的に検討するようなことはできなかったし、そのような検討をすることもしなかった。そこで宮崎県は、被告が、各漁民の操業実態についてより直截に知りうる立場にあり、個々の漁民にその受ける損害に応じて妥当に本件補償金を分配することが可能であると考えられたので、本件補償金の具体的な配分については、被告の責任で行うこととした。
(3) 本件補償について交渉していた被告、一ツ瀬漁業協同組合、檍浜漁業協同組合、宮崎漁業協同組合、青島漁業協同組合の五漁業協同組合は、自由漁業者が補償の対象となることを当然の前提としていた上、宮崎県も右のことを前提に交渉を進めた。また、交渉における争点は、宮崎県から総額でいくらの金員が補償として支払われるかということであり、損失補償基準二〇条及び細則第七第二項の具体的な適用が交渉の争点となったことはなかった。
(三)(1) 宮崎県は、昭和五三年四月一一日の交渉の場で、漁業補償(永久補償)計算法(甲第三及び第四号証)を、本件新港補償金及び宮崎空港の滑走路一九〇〇メートル延長に伴う漁業補償の補償額の計算法の例示として示して説明したところ、被告の組合員から補償の対象が許可漁業のみであるかのような誤解を招くとして反発を受けたため、即日撤回した。
(2) 宮崎港整備事業にかかる損失の補償につき交渉していた被告ら五漁業協同組合と宮崎県は、話し合いの中で、①昭和五三年一月三一日の対策委員選任にあたって、対策委員会に全組合員が交渉、補償額の決定、補償金の受領などにつき一任する②宮崎県が組合員に対して個別補償をすることは不可能であるから、漁業協同組合毎に補償総額を確定してその総額を各漁業協同組合に支払う③補償金の受領は漁業協同組合がなし、その配分は漁業協同組合が行うこととし、宮崎県はその配分に介入しない旨確認した。
(3) 被告は、宮崎県と、前記第二の一4(三)のとおり、昭和五五年一二月八日、本件新港補償金の支払等に関する契約を締結したが、右契約書の当事者として表示されたのは被告であった。また、被告は、宮崎県と、右契約において、①被告は宮崎港整備事業の埋立によって出現した操業禁止区域においては許可漁業及び自由漁業を操業しないものとする②漁業補償金は三億五五〇〇万円とする③宮崎県は、被告に漁業補償金を昭和五六年三月二〇日に現金で支払うものとする④宮崎県は、別に宮崎県及び宮崎市と被告との間で交換する漁業振興策に関する覚書に基づき、被告のために漁業振興を積極的に推進するものとする⑤この契約の締結により、対象区域内の補償については一切解決したものとし、今後、被告は、宮崎県に対して一切の請求をしないものとする旨合意した。
なお、右契約締結の席において、被告の組合員から宮崎県に対して、配分に関して干渉しないようにとの発言があり、これに対して、宮崎県は、配分については被告の責任で行うことで了承した。
(四)(1) 宮崎県は、昭和五七年二月一八日の交渉の場で、漁業補償計算法(甲第二号証)及び漁業補償計算書(甲第五号証)を、本件空港補償金の補償額の計算法の例示として示して説明したところ、本件新港補償金の場合と同様に被告の組合員から補償の対象が許可漁業のみであるかのような誤解を招くとして反発を受けたため、即日撤回した。
また、右席上、被告の組合員より宮崎県に対して、本件新港補償金の場合と同様に、配分に関して干渉しないようにとの発言があり、これに対して、宮崎県は、配分については被告の責任で行うことで了承した。
(2) 被告は、宮崎県と、前記第二の一5(二)のとおり、昭和五七年三月一三日、宮崎県と本件空港補償金総額一億二五〇〇万円を支払うことなどを内容とする補償契約を締結したが、右契約書の当事者として表示されたのは被告を含む五漁業協同組合であった。また、被告は、宮崎県と、右契約において、①被告は宮崎空港整備事業の埋立によって出現した操業禁止区域においては許可漁業及び自由漁業を操業しないものとする②漁業補償金は一六億三二〇〇万円(被告、一ツ瀬漁業協同組合、檍浜漁業協同組合、宮崎漁業協同組合、青島漁業協同組合の補償金を合計した金額であり、うち被告に支払われるのは一億二五〇〇万円である。)とする③宮崎県は、被告に漁業補償金を同年六月三〇日までに支払うものとする④この契約の締結により、対象区域内の補償については一切解決したものとし、今後、被告は、宮崎県に対して一切の請求をしないものとする旨合意した。
(五) 本件補償金は、被告に総額で支払われたものであり、宮崎県は、被告に対し、本件補償金を各漁業者別に特定して支払ったものではない。
以上の認定に反する証人森山忠及び原告本人の各供述は、前掲各証拠に照らし採用することはできない。
3 当事者間に争いがない事実及び以上認定した事実をもとに、宮崎県との間で補償交渉を行い、補償金を受領し、これを被告の組合員らに配分した被告の法的地位について検討する。
(一) 以上認定したとおり、本件補償は、個々の漁民が受ける損害を補償する趣旨のものであり、本件補償金は、最終的には、各漁民に支払われるべきものであるから、本来ならば契約の内容において、誰が本件補償金の受領権を有するのかを決定すべきであった。しかし、宮崎県は、個々の漁民の操業実態について調査することは不可能であったので、本件操業禁止区域において、誰がどの程度の水揚を得ていたかなどについて具体的に検討することができず、そのような検討をすることもしなかった。そこで、宮崎県は、各漁民の操業実態について知りうる立場にあり、個々の漁民にその受ける損害に応じて妥当に本件補償金を分配することが可能である被告の責任で本件補償金の具体的な配分を行うこととし、権利の有無を含めて本件補償金の具体的な配分について被告に一任し、特に受領権者を定めることなく、被告に対し、本件補償金をいずれも総額で一括して支払ったことは前認定のとおりである。
(二) ところで、被告は、宮崎県の指示に基づき、本件補償について、全組合員から委任状を集めたが、これは、前記(一)のとおり、本件補償金は本来損失を受ける各漁民に支払われるべきところ、宮崎県は、誰がどの程度の水揚を得ていたか等について具体的に検討するようなことはできなかったので、組合員全員を相手に交渉しなければならなかったことによるものであり、組合員全員を相手に交渉することは、交渉の相手とされた組合員に、客観的には権利がない者が含まれることになるが、その者を含む全組合員を対象に補償契約を締結することにより、権利がある者を対象から洩らすことなく全体として補償問題を解決することができ、しかも個々の組合員の配分額を定めないまま本件補償金の総額を支払うことにより、権利がない者あるいは権利がない可能性がある者の存在を本件補償金の金額に反映させることができることを考慮した結果であると解される。
また、被告の全組合員は、本件補償に関する交渉について被告の対策委員会または交渉委員に一任し、組合員が個別に本件補償について、宮崎県と交渉するようなことはなかったし、原告自身も、被告が原告ら許可漁業者のためにのみ本件補償に関する交渉を行っているという意識はなく、被告も、原告ら小型底曳網漁に従事する者から委任状を集めた際、特に、補償交渉の内容について具体的な委任を受けるようなことはなく、原告のような許可漁業者のみのために交渉を行っているということではなく、許可漁業者、自由漁業者双方のために、宮崎県と補償に関する交渉を行ったことも前記認定のとおりである。
(三) 以上のことからすれば、宮崎県との間で補償交渉を行い、補償金を受領し、これを被告の組合員に配分した被告の法的地位は、原告ら許可漁業者を含むが、これにとどまらず被告の全組合員の委任に基づくものであったと認められる。
4 これに対し、被告は、宮崎県との間で補償交渉を行い、補償金を受領し、これを被告の組合員らに配分した被告の地位は被告独自の団体協約締結権に基づく旨主張し、証人黒木義幸は右に沿う供述をする。しかし、前記認定の被告と宮崎県の交渉経緯、これに対する宮崎県、被告及びその組合員の対応の状況、とりわけ被告が宮崎県との交渉にあたって全組合員から委任状を徴収していることを考慮すると、被告の右主張が採用できないことが明らかである。
二 争点(二)(被告が原告らから受けた委任の趣旨等)について
前記一において判断したとおり、宮崎県とのあいだで交渉を行い、補償金を受領し、これを被告の組合員に配分した被告の法的地位は、被告の全組合員の委任に基づくものと認められるが、原告の被告に対する委任の趣旨はどういうものであったかについて検討する。
1 前記一2において認定した事実及び同3において判断したところからすれば、原告を含む被告の全組合員は、被告に対し、本件補償に関する交渉及び契約の締結並びに本件補償金の受領を委任していたものと認められる。
2 そこで、原告を含む被告の全組合員から本件補償金の配分に関し、被告がどのような委任を受けていたか検討する。
(一) 宮崎県は、被告に対し本件新港補償金を一括して支払い、本件補償金の各配分を被告の責任において行うこととし、被告の配分に対し、干渉しないものとしたこと、また本件補償金は、個々の組合員に対する具体的な補償額を算定し、これを合算する方法ではなく、被告に対する総額として支払われたことは前記認定のとおりである。
(二) また、宮崎県は、被告を含めた五漁業協同組合が、宮崎港整備事業及び宮崎空港整備事業に反対の立場を当初とっていたことから、これら二つの事業をできるだけ早期に完成させる必要上、政策的な配慮もして本件補償の具体的な金額を算定して被告と合意に達して補償契約を締結したのであり、本件補償に関する被告と宮崎県の交渉は、宮崎県から被告に対し総額でいくらの金員が補償として支払われるかということが最も重要な交渉事項であったことも弁論の全趣旨により認められる。
(三) 甲三五、乙一〇、一一の一、二、六、二六、三七、証人黒木義幸の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告、一ツ瀬漁業協同組合、檍浜漁業協同組合、宮崎漁業協同組合、青島漁業協同組合の五漁業協同組合は、組合員及び各組合の被る損害が大きいとして、当初は宮崎港整備事業及び宮崎空港整備事業に反対し、反対運動をした。反対運動にあたっては、許可漁業者のみならず自由漁業者も参加し、参加した者に対して被告から日当が支給された。
(2) 被告を含む宮崎港整備事業及び宮崎空港整備事業に反対していた五漁業協同組合は、その後昭和五三年一月ころから、漁民並びに各組合の一切の損失が補償されるならば、右各事業に反対をしないことに方針を転換した。
(3) 本件新港補償金の配分は、昭和五六年一月三一日の被告の通常総会の決議により、配分委員会が配分案を作成するものとし、右配分案を総会に諮って決定するものとされた。配分委員は、右総会で、各漁業種別の代表者で構成されている前記第二の一4(一)の対策委員一一名及び地区総代が各一名ずつ選任する一本釣り代表五名のあわせて一六名が選任されたが、その後、原告が辞任したので一名を補充し、さらに小型巻網代表に一名を補充した。配分委員は、過去に漁業補償を受けたことがある組合の配分の状況を調査した上、同年六月二一日の配分委員会では配分委員会規定を満場一致で可決し、配分案の審議に入り、配分委員会を一〇回、役員会を五回開いて、配分案を決定した。
配分委員会が、配分案を決定するにあたっては、組合員を補償を受ける権利がある者とその権利がない者を選別するような作業は行われなかった。
(4) 昭和五六年一一月三〇日の被告の臨時総会において、本件新港補償金の配分案は異議なく満場一致で承認された。なお、以上の配分に関する手続について、原告を含む被告の組合員から積極的な異議が出されたことは、終始なかった。
(5) 本件空港補償金の配分は、昭和五六年一一月三〇日の交渉委員(七名)を選任した臨時総会の決議により、本件新港補償金と同様に配分委員会が配分案を作成するものとし、配分委員は、被告の役員八名が就任することとなり(なお、配分委員は、昭和五七年八月一八日の被告の全員協議会の議を経て一〇名に増員された。)、同年一〇月一九日の第一回配分委員会で漁業補償金配分委員会規定が制定された。配分委員会は、その後七回開かれ、同年一二月二四日に、本件空港補償金の配分案を決定した。
配分委員会が配分を決定するにあたっては、組合員を権利がある者とその権利がない者を選別するような作業は行われなかった。
(6) 同年一二月二六日の被告の臨時総会において、本件空港補償金の配分案は満場一致で可決された。なお、以上の配分に関する手続において、原告を含む被告の組合員から積極的な異議が出されたことは、終始なかった。
(四) 前記当事者間に争いがない事実及び以上認定した事実をもとに、原告を含む被告の全組合員から本件補償金の配分に関し、被告がどのような委任を受けていたか検討する。
(1)ア 権利者が誰であるかは、本来ならば補償契約において定められるべきものであるが、本件補償においては、契約の相手方である宮崎県は、権利者の確定を被告の責任で行うことを了承するとともに、その確定手続については、被告とは特に合意せず、被告は、総会の決議により、配分委員会が権利者の確定を含めて配分案を作成し、右配分案を総会に諮って決定するものとして、右配分委員を総会において選任したのであるが、このような配分の手続に対し、原告をはじめ積極的に異議を述べた者はいなかったことは前記認定のとおりである。
イ また、本件補償に関する交渉では、総額でいくら支払われるかが争点となっており、被告は、できるだけ多くの補償金を得るため、交渉を続け、宮崎県も、事業をできるだけ早期に完成させる必要があったことから、政策的な配慮もして本件補償の具体的な金額を算定したことは前記認定のとおりであり、本件補償金には、本来的に権利者に支払われなければならない部分と、交渉の結果により政策的に増額された部分があったと解される。
このように、本件補償金には交渉の結果により政策的に増額された部分があったと解されるうえ、そもそも本来の補償の対象となるのは、前記第二の一3の損失補償基準等によれば、権利性のある許可漁業者及び自由漁業者であり、許可漁業者であれば当然に補償の対象となるものでなければ、自由漁業者が対象から当然に排除されるものでもなく、また右にいう権利性の判断には多くの困難を伴っていることからして、本件補償金について、組合員の誰にいくら支払われるべきかはもともと不明確であったのであり、その結果、前認定のとおり、被告の全組合員は、総会において、配分委員会が権利者を具体的に確定して、右確定に基づき配分する旨の決議をするようなことはなかったと解される。
そして、配分委員会においても、具体的な根拠に基づき配分を受ける者の権利の有無を確定することは行われなかったことも前認定のとおりである。
ウ また、前記一2(一)(1)のとおり、宮崎県が本件補償金の額を算定するにあたっては、自由漁業者の水揚高を計算の基礎に入れていたのであるし、被告は、組合員全員から委任状の提出を受ける以前から、宮崎県と本件補償に関する交渉を行い、その後の交渉も、原告ら許可漁業者のみならず、自由漁業者も関与し、組合が実質的な当事者となって全組合員の利益のために宮崎県と交渉しており、これにより支払われた本件補償金の配分を決める配分委員も、総会の決議により、原告ら許可漁業者のみならず、他の漁業種の者や組合の役員が選任されたことも前認定のとおりである。
(2) 以上の点その他前認定の事実ないし事情からすれば、被告は、原告ら許可漁業者のみならず被告の全組合員から本件補償金を配分することについて委任を受けたと解することができ、その委任の趣旨ないし内容は、被告の配分委員会において、補償金を受け取る組合員の範囲、額等の配分方法について合理的な案を作成し、これに基づき本件補償金を配分するように委任されていたものと解することができる。
3 以上において判断したところによれば、原告を含む被告の全組合員が、被告に対し行った委任の趣旨は、本件補償に関する交渉を行い、本件補償金を受領し、被告の配分委員会が、自由漁業者を含めた補償金を受け取る組合員の範囲、額等の配分方法について、合理的な裁量に基づく案を作成し、これに基づき配分することであったと認められるのであって、原告主張のように、原告の委任の趣旨が許可漁業者のみに本件補償金を配分するというような限定を付されたものであったとは解されない。
三 争点(三)(原告に対する本件補償金の配分の適否)について
そこで、被告に対する原告を含む全組合員の委任に基づき実施された本件補償金の配分が、原告に関して委任の趣旨ないし内容に沿っていたかどうか、換言すれば、本件補償金の配分方法が合理的かつ相当であったか否かについて検討することとするが、まず、本件補償金は具体的にどのように配分されたかについて検討し、次に被告ないし被告の配分委員会が、本件補償金の配分に際しどのような事項を考慮し、また考慮すべきであったかを検討したうえ、これに基づき本件補償金の配分の合理性ないし相当性を判断するものとする。
1(一) 本件新港補償金の配分については乙一〇、三八及び証人黒木義幸の証言によれば、以下の事実が認められる。
本件新港補償金の配分委員会の配分案は、別紙一のとおりであり、配分の基本は、水揚高割と組合利用高割に置いた。水揚高割は、操業禁止区域が設定されることに伴い水揚実績が減少するなどの影響が生ずるので、右影響を本件新港補償金の配分に反映させるために考えられたものである。組合利用高割は、操業禁止区域が設定されたことに伴い関係する組合員において被告を利用することが減少し、そのため、組合員に対する配当の減少や組合財産自体の減少を来して、最終的には組合員に経済的な不利益が生ずるので、この経済的な不利益を本件新港補償金の配分に反映させるために考えられた。
本件新港補償金に関する配分委員会の配分案の具体的内容とこれに基づいて計算した原告の本件新港補償金の配分額は以下のとおりである。
(1)ア 配分委員会は、本件新港補償金総額三億五五〇〇万円のほぼ五〇パーセントにあたる一億七七五八万一〇〇〇円を水揚高割として配分することとした。そのうえで被告の組合員が営んでいる漁業種を小型定置、小型底曳、小型まき網、曳縄一本釣及び鰹一本釣の五種類に分け、被告の全組合員を右のいずれかに区分して(なお、複数の漁業種を営んでいる組合員については、年間操業日数の多い漁業種に区分した。)、各漁業種ごとに、昭和四八年一月一日から昭和五二年一二月三一日までの五年間の水揚高を水揚伝票により集計してこれを五で割り、一年間の平均水揚高を算出し、その平均水揚高に対し、配分委員会で検討した各漁業種ごとの本件操業禁止区域に対する依存度(小型定置については一五パーセント、小型底曳については八〇パーセント、小型まき網については二五パーセント、曳縄一本釣については二五パーセント、鰹一本釣については一五パーセント)をかけたものを算出した。このようにして算出したものを算定基礎とし、水揚高の配分額一億七七五八万一〇〇〇円を各漁業種別の算定基礎を合計した六七五一万四〇〇〇円で割って、本件新港補償金を、算定基礎一円あたりいくら配分すればよいか算出した。その結果、算定基礎一円あたり本件新港補償金は二円六三銭あて配分されることとなった。
各組合員に対する本件新港補償金の配分は、個人別の平均水揚高に依存度をかけて算定基礎を出した上、右算定基礎一円に対し二円六三銭をかけて、算出された(なお、小型まき網の一経営体は、配分時である昭和五五年一二月三一日当時休業中であったため、定額として五〇〇万円を配分することとした。このため、小型まき網漁者に水揚高割として配分された本件新港補償金は、必ずしも、前記依存度二五パーセントに基づいて計算された水揚高割の額と一致せず、これにより計算された補償額より少額となった。)。
イ 配分委員会は、組合利用高割として本件新港補償金のうち一億六三四三万五〇〇〇円(補償金総額三億五五〇〇円のほぼ四六パーセント)を配分することとした。組合利用高割は、出資金割、加入年数割、均等割及び貯金利用高割に分かれる。
ⅰ 出資金割は、被告に対する各組合員の出資金一口あたり一〇〇〇円が配分された。被告の出資口の総数は昭和五五年一二月三一日現在七二二一口なので、出資金割の総額として七二一万一〇〇〇円、本件新港補償金総額のほぼ二パーセントが配分された。
ⅱ 加入年数割は、正組合員の組合加入年数に応じて、一五年以上の者には三〇万円ずつ、一〇年以上一五年未満の者には二五万円ずつ、一〇年未満の者には二〇万円ずつが配分された。被告の組合員で、一五年以上の者は六二名で合計一八六〇万円、一〇年以上一五年未満の者は一七名で合計四二五万円、一〇年未満の者は一〇名で合計二〇〇万円配分することとなり、その合計額は二四八五万円、本件新港補償金総額の七パーセントが配分された。
ⅲ 均等割は、被告の正組合員のうち地区外船乗組員一〇名を除いた七九名に対して一人あたり一三〇万円、全部で一億〇二七〇万円、地区外船乗組員一〇名に対して一人あたり六〇万円、全部で六〇〇万円、五二名の準組合員に対しては一人あたり二〇万円、全部で一〇四〇万円、当時は準組合員となっていたが、昭和四八年一月一日から昭和五二年一二月三一日にかけて親の船に乗組員として乗って操業していた年数の長かった二名に対して三五万円と四〇万円、現在漁業に従事していない一〇名の老年組合員に対しては、昭和四八年一月一日から昭和五二年一二月三一日にかけて組合を利用しているので、一人あたり四〇万円、全部で四〇〇万円、昭和四八年一月一日から昭和五二年一二月三一日の間に死亡した組合員の遺族に対しては、一組合員あたり三〇万円、全部で三六〇万円配分されることとなり、その合計額は、一億二七四五万円、本件新港補償金総額のほぼ35.9パーセントが配分された。
ⅳ 貯金利用高割は、被告に対する定期貯金一〇〇〇円あたり二〇円が配分された。貯金総額は一億九六二〇万円であり、貯金利用高割の総額として三九二万四〇〇〇円、本件新港補償金総額のほぼ1.1パーセントが配分された。
ウ 水揚高割の配分額一億七七五八万一〇〇〇円と組合利用高割の配分額一億六三四三万五〇〇〇円の合計額は三億四一〇一万六〇〇〇円となり、本件新港補償金三億五五〇〇万円との差額が一三九八万四〇〇〇円生じた。この差額は、地区外船乗組員を除いた正組合員七九名に配分することとされた。組合員の水揚高割の配分額一億七七五八万一〇〇〇円から準組合員の水揚高割の配分額五七三万二〇〇〇円を差し引いた一億七一八四万九〇〇〇円を水揚高割算定基礎とし、さらに組合員の組合利用高割一億六三四三万五〇〇〇円から準組合員の組合利用高割二八七六万七〇〇〇円を差し引いた一億三四六六万八〇〇〇円を組合利用高割算定基礎とし、水揚高割算定基礎と組合利用高割算定基礎の合計額は三億〇六五一万七〇〇〇円となるので、前記差額一三九八万四〇〇〇円をこの算定基礎の合計額三億〇六五一万七〇〇〇円で割ると、水揚高割と組合利用高割の合計額の一円あたり、差額金を四銭五厘六毛配分することとなる。
(2) 原告の本件新港補償金は、(1)の配分案をもとに計算すると次のようになり(なお、以下の計算は一〇〇〇円未満の金額について四捨五入している。)、原告は、同額の本件新港補償金を受け取った。
ア 原告は、小型底曳網漁に従事しており、その平均水揚高四八七万一〇〇〇円であるところ、小型底曳網漁の依存度は八〇パーセントとされたから、その算定基礎は四八七万一〇〇〇円に0.8をかけた三八九万七〇〇〇円となり、これに対し二円六三銭をかけた一〇二四万九〇〇〇円が水揚高割による配分金額となった。原告に対するこの配分額は、水揚高割の配分を受けた組合員の平均額の約四倍(個人別水揚高一〇〇万円あたりの配分額で比較しても平均の約2.8倍)である。
イⅰ 原告の出資口数は二〇〇口であるから、出資金割は、二〇万円となった。
ⅱ 原告は、正組合員で被告に加入している年数が一五年以上であるから、加入年数割は三〇万円となった。
ⅲ 原告は正組合員であるから、均等割は一三〇万円となった。
ⅳ 原告の貯金額は四〇五万円であったから、貯金利用高割は八万一〇〇〇円となった(以上ⅰないしⅳを合計した一八八万一〇〇〇円が組合利用高割による配分金額となった。)。
ウ 原告の差額金の配分額は、水揚高割による配分金額一〇二四万九〇〇〇円と組合利用高割による配分金額一八八万一〇〇〇円を合計した一二一三万円に四銭五厘六毛をかけた五五万三〇〇〇円となった。
エ 以上により、原告に対する総配分額は、水揚高割による配分金額、組合利用高割による配分金額及び差額金の配分額を合計した一二六八万三〇〇〇円となった。
(二) 本件空港補償金の配分については、乙一〇及び証人黒木義幸の証言によれば、以下の事実が認められる。
本件空港補償金の配分委員会の配分案は、別紙二のとおりであり、配分の基本は、本件新港補償金と同様な趣旨から水揚高割と組合利用高割に置かれた。本件空港補償金に関する配分委員会の配分案の具体的内容および右配分案に基づいて計算した原告の本件空港補償金の配分額は、以下のとおりである。
(1)ア 水揚高割として配分された額は六五〇九万五〇〇〇円であり、本件空港補償金総額一億二五〇〇万円のほぼ五二パーセントにあたる。
本件空港補償金の補償の対象となった操業禁止区域は、本件新港補償金の補償の対象となった操業禁止区域と隣接しているので、本件新港補償金と同様に、主たる漁業種を五種類に分け被告の全組合員をそのいずれかに区分し、各漁業種ごとに、昭和五〇年一月一日から昭和五四年一二月三一日までの五年間の水揚高を水揚伝票により集計してこれを五で割り、一年間の平均水揚高を算出し、その平均水揚高に対し、原則として本件新港補償金の配分の場合と同じ各漁業種ごとの依存度(小型定置については一五パーセント、小型底曳については八〇パーセント、曳縄一本釣については二五パーセント、鰹一本釣については一五パーセント。なお、小型まき網については、本件新港補償金の配分の場合と異なり18.7パーセントを依存度とした。)をかけたものを算出した。このようにして算出したものを算定基礎とし、水揚高の配分額六五〇九万五〇〇〇円と各漁業種別の算定基礎を合計した七二八四万九〇〇〇円から、算定基礎一円あたり本件空港補償金は九二銭二厘四毛あて配分されることとなった。
各組合員に対する本件空港補償金の配分は、個人別平均水揚高に依存度を乗じて算定基礎を出した上、右算定基礎一円に対し九二銭二厘四毛を配分して、算出した(なお、小型まき網の一経営体は、配分時である昭和五七年一〇月三一日当時休業中であったため、定額の一三〇万円を配分することとした。)。
イ 組合利用高割として配分された額は五七七九万六八〇〇円であり、本件空港補償金総額一億二五〇〇万円のほぼ四六パーセントにあたる。組合利用高割は、出資金割、加入年数割、均等割及び貯金利用高割に分かれる。
ⅰ 出資金割は、正組合員九〇名について、出資金一口あたり四〇〇円が配分された。被告の出資口の総数は昭和五七年一〇月三一日現在七四五七口なので、出資金割の総額として二九八万二八〇〇円、本件空港補償金総額のほぼ2.4パーセントが配分された。
ⅱ 加入年数割は、正組合員の組合加入年数に応じて、一五年以上の者には一〇万円ずつ、一〇年以上一五年未満の者には八万円ずつ、一〇年未満の者には六万円ずつ配分するもので、一五年以上の者は五九名で合計五九〇万円、一〇年以上一五年未満の者は一七名で合計一三六万円、一〇年未満の者は一四名で合計八四万円配分することとなり、その合計額は八一〇万円、本件空港補償金総額のほぼ6.5パーセントが配分された。
ⅲ 均等割は、被告の正組合員のうち地区外船乗組員一〇名を除いた八〇名に対して一人あたり五〇万円、全部で四〇〇〇万円、地区外船乗組員一〇名に対して一人あたり二一万五〇〇〇円、全部で二一五万円、五六名の準組合員に対しては一人あたり五万円、全部で二八〇万円、当時は準組合員となっていたが、盛漁期に親の船に乗組員として乗って操業していた年数の長かった者について、その操業していた年数を考慮して、うち五名に対して一人あたり七万円、全部で三五万円、うち二名に対して一人あたり一〇万円、全部で二〇万円を配分することとなり、その合計額は、四五五〇万円、本件空港補償金総額の36.4パーセントを配分した。均等割による配分の仕方が、本件新港補償金の配分の際と異なるのは、配分委員会で、本件新港補償金の配分の場合より簡略な配分をするものとされたためであった。
ⅳ 貯金利用高割は、被告に対する定期貯金一万円あたり二八円が配分された。貯金総額は四億三六四二万円であり、貯金利用高割の総額として一二一万四〇〇〇円、本件空港補償金総額の約一パーセントが配分された。
ウ 水揚高割の配分額六五〇九万五〇〇〇円と利用高割の配分額五七七九万六八〇〇円の合計額は一億二二八九万一八〇〇円となり、本件空港補償金一億二五〇〇万円との差額が二一〇万八二〇〇円生じた。この差額は、地区外船乗組員を除いた正組合員八〇名に対して、一人あたり二万六〇〇〇円、全部で二〇八万円を配分することとされた。さらに、その残額二万八二〇〇円については、被告の宮崎県に対する交渉諸経費に充当することとした。なお、本件新港補償金の配分案の場合と、差額の配分の仕方が異なるのは、均等割の場合と同様に、配分委員会において、本件新港補償金の配分の仕方より簡略な方法で配分することとされたためであった。
(2) 原告の本件空港補償金は、(1)の配分案により計算すると次のようになり、原告は同額の本件空港補償金を受け取った。
ア 原告は、小型底曳網漁に従事しており、その平均水揚高五一三万八〇〇〇円であるところ、小型底曳網漁の依存度は八〇パーセントであるから、その算定基礎は五一三万八〇〇〇円に0.8をかけた四一一万円となり、これに対し九二銭二厘四毛をかけた三七九万一〇〇〇円が水揚高割による配分金額となった(なお、一〇〇〇円未満の金額については四捨五入)。原告に対するこの配分額は、水揚高割の配分を受けた組合員の平均の約3.3倍(個人別水揚高一〇〇万円あたりの配分額で比較しても平均の約2.8倍)である。
イⅰ 原告の出資口数は二一九口であるから、出資金割は、八万七六〇〇円となった。
ⅱ 原告は、正組合員で被告に加入している年数が一五年以上であるから、加入年数割は一〇万円となった。
ⅲ 原告は正組合員であるから、均等割は五〇万円となった。
ⅳ 原告の貯金額は一〇七一万円であるから、貯金利用高割は二万九九〇〇円となった(なお、一〇〇円未満の金額は切捨て)(以上ⅰないしⅳを合計した七一万七五〇〇円が組合利用高割による配分金額となった。)。
ウ 原告は正組合員であるから、差額金の配分額は二万六〇〇〇円となった。
エ 原告の総配分額は、水揚高割による配分金額、組合利用高割による配分金額及び差額金の配分額を合計した四五三万四五〇〇円となった。
2 次に配分方法の決定にあたって考慮された事項について検討する。
(一) 被告が、通常総会において、宮崎港整備事業にかかる損失の補償について、宮崎県との交渉は被告の対策委員会に一任する旨決議され、対策委員会が宮崎県と補償額等について交渉したこと(前記第二の一4(一))及び被告が、臨時総会において、宮崎空港整備事業にかかる損失の補償について、交渉委員会を選任し、交渉委員が宮崎県と補償額等についての交渉にあたったこと(同5(一))は前認定のとおりである。
(二) また、被告が宮崎県と本件補償に関する交渉をした際の法的地位及び本件補償交渉の際における宮崎県の補償金の算定に関する基本的な事実関係(前記一2)、あるいは、宮崎県と被告との本件補償に関する交渉の経緯及び本件補償金の配分にいたる経緯についての基本的事実関係(前記二2)はいずれも前認定のとおりである。
(三) 甲一五、四六(ただし、以下の認定に反する部分は除く。)、四七、乙六、一〇、一四、一五、一七ないし二一の各一及び二、二二の一ないし三、二三の一、二、四〇、証人野崎徹志及び黒木義幸の各証言、原告本人尋問の結果(以下の認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件操業禁止区域は、大淀川の河口付近の、水深が約五メートルないし約一〇メートル前後、深いところで一五メートル位のところで、底質は主に砂となっており、岩石、岩礁などが見あたらない海域であり、淡水と海水が混じりあい、植物プランクトンなどの養分が多く、また、藻が多く繁茂しており、原告が営んでいた小型底曳網漁であるエビ曳網漁業の対象魚種であるエビが棲息するのに適した状態だった。しかし、このような本件操業禁止区域を漁場の一部としていた漁業は、原告の小型底曳網漁業に限らず、許可漁業である刺網漁業、バイカゴ漁、機船船曳網漁業があったほか、自由漁業のタチ魚釣り(一本釣漁業)、フグ延縄漁業、いか釣り漁業(一本釣漁業)、サゴシ曳縄漁業等も操業していた。
また、原告と同じ小型底曳漁業を営む者の内には、本件操業禁止区域だけではなく、漁業許可において認められた一ツ瀬川の河口の沖合から油津の沖合の範囲内の海域で主たる操業をしていた者もいた。
(2) 本件新港補償の際の配分委員会は、漁業種ごとの利害を調整しながら、議論して、配分基準を定めていった。
前記2(一)の本件新港補償金の配分案のとおり、水揚高割を五〇パーセント、組合利用高割を四六パーセントとすることは、さして議論されることもなく決まったが、水揚高割において、各漁業種ごとの依存度を設定するかどうかについては賛否が分かれた。その際、依存度割の設定に反対し、全組合員が水揚高に応じて補償されるべきであるとする設定に反対する立場の者からは、本件操業禁止区域で操業していた漁業者が他の海域で操業することとなり、その結果、他の海域で主として操業している漁業者の水揚げが減少するし、本件操業禁止区域の設定により、右海域で漁業を営んでいた者が漁業をやめるならば、依存度を一〇〇パーセントと設定することには合理性があるが、右漁業者も漁業をやめるわけではないから、一〇〇パーセントと設定することに合理性がないなどの主張も有力であったが、結局、本件新港補償金の配分においては依存度についても十分な配慮をすることとなり、各漁業種の代表者から構成されていた配分委員の議論により、配分案のとおり決定された。
また、配分委員会は、本件操業禁止区域の設定による水揚高の減少により、組合財産の減少、組合の信用事業の縮小、組合員に対する利益配当の減少等の経済的な不利益が組合員に生じることから、組合利用高割を設定することとした。その際、出資の多寡や被告の財産形成に対する貢献が考慮された。被告に対する今までの貢献等を考慮したことから、本件新港補償金が老年組合員や準組合員、昭和四八年以後に死亡した組合員に対しても配分されることとなった。本件新港補償の際の配分委員会は、以上のような検討を経て配分案を決定した。
また、本件空港補償の際の配分委員会も同様な検討を経た上、配分案を決定した。
(3) 被告は、組合員であれば、誰でも利用できるが、組合員は、許可漁業者に限らず、自由漁業者も、被告に対し、六パーセントの手数料を支払って、自らの漁獲物の販売委託をすることができ、また、被告が販売した漁獲物の代金を預金したり、被告から低利で融資を受ける等の利益を受ける。そして、被告は、その受領した手数料を組合員全員のために使用し、余剰があれば、出資配当として組合員に還元することとなっていた。ところで、被告における昭和五七年度の自由漁業者の全預金高は五億〇一三五万九八一五円であり、許可漁業者のそれは七六八〇万六八一〇円であった。また、被告が同年度に組合員から受領した販売委託手数料は、自由漁業者については約一五八四万八九二九円、許可漁業者については約一五〇万四四五八円であった(このことからすれば、自由漁業者は、被告が組合員全体の利益のために活動するについて、経済的に十分な貢献をしているものと解することができる。)。
(4) また、被告は、前記第二の一1(一)のとおり、青島漁業協同組合とともに第一三号(昭和五八年八月までは第一四号と称していた。)共同漁業権を有しているが、右漁業権の内容は、被告又は青島漁業協同組合の組合員で、自由漁業者であれば、共同漁業権が設定されている海域おいて、誰でも操業することができるが、許可漁業者は、その区域内では許可された漁法により、操業することはできないものの、被告が、許可漁業者に、一定の期間、一定の区域を限って、共同漁業権が設定されている海域内で操業を許可することがあった。したがって、本件操業禁止区域の出現により、そこで操業できなくなった許可漁業者が、共同漁業権がある海域で操業するようになり、自由漁業者の水揚高に影響が出ることとなる。
以上の認定に反する甲四六及び原告本人の供述は、前掲各証拠に照らして信用することができない。
3 以上に基づいて、本件補償金の配分の合理性ないし相当性について検討することとする。
(一) まず、以上認定の事実等の主要な点を整理すると、次のとおりである。
(1) 本件補償は、本件操業禁止区域が設定されたことに伴い、個々の漁民が受ける損害を補償する趣旨のものであるところ、このような損害のうち重要なものは水揚高の減少である。宮崎県も、この点から、本件補償の具体的な金額の算定にあたっては、平均水揚量を主な根拠とした。
しかし、本件補償金にはこのような平均水揚量だけから算出されたものではなく、宮崎港整備事業及び宮崎空港整備事業に対する被告の反対運動をはじめとした一連の交渉によって獲得された部分があり、このことと、前記二で検討した本件補償について原告を含む被告の組合員が宮崎県との交渉や本件補償金の配分を被告に委任した趣旨等に関する一連の経緯を考慮すると、本件補償金の配分にあたっては、本件操業禁止区域が設定されたことに伴う損害としては、本件操業禁止区域の設定により、右区域内で漁業を営めなくなることによる損失補償基準等にいう損害のみではなく、右海域で操業できなくなった漁業者が他の海域で操業することにより、もともとその海域で操業していた漁業者の被る水揚高の減少その他の全組合員が受ける直接的及び間接的な損害を含めて、配分案に反映させることが許されるのであり、そのように解することが、むしろ本件補償金の配分についての組合員の委任の趣旨に沿うものと理解される。
さらに、本件補償に関する交渉は、許可漁業者のみでなく、自由漁業者も加わった被告が中心となって行われたものであり、本件操業禁止区域の設定による損害は、右海域で操業していた者のみならず、手数料収入の減少等により被告自体に経済的な損失が生じ、そのことが、各組合員に対する利益配当の減少等による組合員個人の経済的な損失につながるのであり、このような交渉を行った被告の経済的な基盤は重要部分について自由漁業者によって支えられており、経済的な基盤の安定には、組合員の被告に対する預金や長期間組合に加入していた全組合員が貢献していたと評価できる。
(2) また、宮崎県が本件補償の具体的な金額の算定にあたって主な根拠とした平均水揚量には、自由漁業者の水揚高を含んでおり(前記一2(二)(1))、また、本件操業禁止区域は、原告が営んでいた許可漁業の小型底曳網漁の対象魚種であるエビが棲息するのに適した海域であったが、この海域では、小型底曳網漁に限らず、自由漁業である一本釣漁業等も操業し、他方、小型底曳漁を営む者には、本件操業禁止区域以外の海域で操業している者もいた。
次に、水揚高割の配分を受けた組合員の平均配分額と原告が受けた水揚高割の配分額とを比較すると、前記認定の配分方法によると、本件新港補償金については平均の約四倍、本件空港補償金については平均の約3.5倍の額を原告が受け取り、水揚高一〇〇万円あたりの水揚高配分額を比較しても、本件新港補償金についても、本件空港補償金についても、原告はいずれも平均の約2.8倍の額を受け取った。したがって、原告は、平均的な組合員より、十分有利に水揚高配分を受け取ったものと認められる。
(3) 本件補償金は、自由漁業者を含めた被告の反対運動をはじめとした一連の交渉の結果、獲得されたものであった。この交渉において、本件補償の対象者を許可漁業者に限るという話はなく、むしろ自由漁業者を含めて補償するという前提で交渉が続けられた。宮崎県との交渉を具体的に担当した対策委員または交渉委員は、被告の総会における原告を含む組合員決議により選任されたもので、その選任は、原告をはじめとする組合員の意思が反映したものであった。
また、本件補償金の配分案を作った配分委員会の委員は、被告の総会決議により選任されたものであり、配分委員は、配分の先例について調査したうえ、その合議により配分案を決定した。配分委員は、本件新港補償金の配分の場合には、各漁業種の代表により構成され、各漁業種の利害が実質的に反映される体制であったし、本件空港補償金の配分の場合には、被告の役員が選任されたが、配分案の内容は、本件新港補償金の場合と大きく変わることはなく、委員の構成の変更により、本件新港補償金の配分の場合より原告に不利益な配分案が作成されたとは認められない。そして、配分委員会が作成した配分案は、本件新港補償金の配分の場合も、本件空港補償金の配分の場合も、被告の総会において原告を含む組合員らから積極的な異議が述べられることなく、満場一致で承認された。
原告は、被告に対し、前記二3のとおり、合理的な裁量に基づく配分方法による本件補償金の分配を委任していたものであり、本件補償に関する交渉の過程においても、本件補償金の配分に関する過程においても、被告またはその配分委員会の動向に、明示的に反対の意思表示を行ったことはなかった。さらに、原告が、配分委員会の配分案に基づき受け取った本件補償金のうち水揚高割については、原告の依存度が相応に反映されているし、また組合利用高割については、他の組合員と比較してとりたてて不利とはいえない。
(二) 以上を前提に判断すると、前記(一)(1)によれば、水揚高割として本件新港補償金総額のほぼ五〇パーセント、組合利用高割として右総額のほぼ四六パーセントを配分するものとした配分案及び水揚高割として本件空港補償金総額のほぼ五二パーセント、組合利用高割として右総額のほぼ46.3パーセントを配分するものとした配分案は、いずれも相応の合理性ないし相当性があったものと認められる。またこれと同(2)によれば、配分委員会が、原告が営む小型底曳網漁の依存度を八〇パーセントと定めて水揚高割を算出したことについても相応の合理性ないし相当性があると解されるし、さらに前記(一)(3)の事情もあわせて検討すれば、配分委員会が作成した本件補償金の配分案は、現実の配分額並びにその算出方法の内容及び過程等のいずれの点においても、本件補償金の配分にあたり原告を含む組合員から受けた委任の趣旨、内容に基づく合理的な裁量の範囲を原告に対する関係において逸脱したものであるとすることができないことが明らかである。
したがって、以上によれば、原告の請求は、本件補償金の配分が原告に対する関係で違法ないしは債務不履行であることを前提としているのであるから、理由がないというべきである。
4 ところで、原告は、被告が配分にあたって行使できる裁量の範囲は、損失補償基準等に従わなければならないという制約の範囲内に限られると主張するので、念のためこの点についても検討しておく。
損失補償基準は運輸省の訓令であるが、訓令は国家行政組織法一四条二項に基づき、上級の行政機関が下級の行政機関の権限行使を指揮するにつき発する命令である。そして、損失補償基準は、公共事業の執行に伴い、土地等の取得や使用が必要となった場合において、その土地等の対価及び事業の執行に伴って通常生ずる損失を補填することが必要となるが、そのために支払われるべき金額を算定し、支払に必要な事項のうちその主なものを定めて、公共事業の際の統一的な損失の補償を確保し、被補償者の不満を解消することで事業の円滑な遂行を図るとともに、適正な補償を確保することを目的として定められたものである。また、細則は、損失補償基準に基づき金額の算定等をする際の処理の細目を定めたものである。
損失補償基準等は、これらのことからすれば、行政機関内部の、公共事業の際に損失補償の金額を算定等に関して発せられた命令に過ぎず、直接国民の権利義務に関し規定するものではないから、被告が配分にあたって行使できる裁量の範囲は、原告を含めた被告の組合員の委任の趣旨により定まるものというべきである。そして、その委任の趣旨は、前記二において判断したとおりであり、被告の組合員は、被告に対する委任において、本件補償金の配分の際、被告が損失補償基準等の制約の範囲内に行使できる裁量を限定したものとは認められないというべきである。
したがって、本件補償金の配分にあたり、被告が行使しうる裁量の範囲についての原告の右主張は理由がない。
第四 結論
以上要するに、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官三輪和雄 裁判官田口直樹 裁判官梶智紀)
別紙<省略>